第38回「高松塚古墳、傷ついた宝物」

久保美智代 フリーアナウンサー 世界遺産ウォッチャー
 

 「奈良は古墳の宝庫」。その中でも、今、最も話題なのは明日香村の『高松塚古墳』でしょう!
1972年に見つかった「飛鳥美人」と呼ばれる4人の女性の壁画は、教科書にも載っているほど有名です。その年、墳丘は特別史跡に、石室に描かれた壁画は国宝に指定されました。しかし、2年前にカビで壁画が劣化していることが報道され、07年春には修復するために石室が解体されます。

 わずか2年で、竹林に覆われた墳丘は無機質な覆屋に変わり、痛々しい姿をさらしています。人間でいうと緊急手術中といったところでしょうか。ここに来るたび、覆い屋の中ではどんな手術がなされているのか気になっていました。今回、村民限定ですが、中を公開するということを聞き、様子を見に行ったら、あっさりと中に入ることができました。


 中には、こんもりとした墳丘がありました。石室を取り出すための発掘作業中で、中央の土層の断面を一部残して、大きくくりぬかれています。断面には何層も薄く土を重ねた筋があり、丁寧に作られたことや、『高松塚』の由来になった江戸時代の松の根の跡、盗掘の痕跡など、多くのことが分かりました。普通の古墳ではこうした機会はあまりなく、専門家になった気分。しかし、この貴重な墳丘は間もなく消滅するのです。 さらに掘り進み、真下にある石室をクレーンで取り出す作業が始まります。最初で最後の公開だったのです。


 この話を思い出し、墳丘を見られたうれしさは吹き飛び、怒りがこみ上げてきました。時間とともに傷んでしまうのは、仕方のないことです。でも、劣化がひどくなるまで事実を公表せず、しかも、今年はその間の人為的な破損なども次々と明らかになったのです。文化庁には大きな責任があります。高松塚古墳は、私たち国民の宝なのですから。

  高松塚ほど、文化庁の存在意義を考えさせた文化財はないでしょう。せめて、壁画の修復はうまくやって、成果を公表してほしいと思います。

 

 
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