おしゃべりで本音
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このコーナーは各界でユニークな活動をされている人の生きざまを、
インタビュー形式でお送りしています。
5月

 江澤先生に聞く 〜聞き手:久保美智代〜

真野八郎氏えざわ いくこ

日本女子大学名誉教授 医学博士 専攻分野は栄養学
1963年日本女子大学大学院修士課程家政学研究科食物・栄養学専攻修了 同大助手、講師を経て
1979年助教授 1985年教授
カルシウム代謝および骨粗鬆症予防研究で 日本家政学会賞 日本栄養・食糧学会賞 日本農学賞を受賞
2001年秋に紫綬褒章受章
真野博氏

聞き手〜久保美智代〜
フリーアナウンサー、愛媛県出身、愛媛大学教育学部卒。
1995年愛媛朝日テレビ入杜、その後、独立。
HPではこれまで訪れた世界遺産120ヵ所をオリジナル写真で紹介。

   

久保 今日は骨の健康づくり委員会でおなじみの江澤郁子先生に、私、久保美智代がお話を伺いたいと思います。
先生は栄養学のご研究を始められて40年の大ベテランということですが、また先生は研究が楽しくて仕方がないというふうにお見うけしますけど、なぜ栄養学の道に進まれたのですか。


江澤 体にとって一番大事なのが食物、食生活です。食べることによって体だけではなく心も豊かになります。このことを研究したいと思いました。もう一つは、若い時入院して気づいたのですが、医者は病気を治すことには一生懸命だけれども、食物学、栄養学についてはほとんど勉強していない、逆に栄養学をやっている私たちは医学のことはまるきりわからない。そこに接点が絶対に必要だと考えたのです。それで私は特にその接点をやっていこうということで天職のように思えてやってきました。 
30年以上前のことですが、立派な先生にめぐり合うことができ、カルシウムの研究に取り組み、カルシウムが体にとっていかに重要な働きをするかということに感動しました。当時は今のような高齢化社会ではないけれども、だんだん食べ物も豊富になって、長生きされる方もふえてきていた時代でした。一方で子どもたちを見ると、確かに体位は向上してきたけど何か虚弱だと。やはり基本的な体づくり、骨づくりが大切だけど、それにはカルシウムがとても大事だと。「骨粗鬆症」という言葉もまだほとんどの人が知られてなかったし、医学の分野でも骨ということがあまり話題にならなかった時代ですが、私はカルシウムと骨の研究をどうしてもやりたいと思ったわけです。 
江澤先生近影私は家政学部食物学科でしたが、家政学部食物学科というのは生活のことを勉強するんですね。食だけでなくてどういう生活をするか。生活の仕方によって健康な体ができる。つまり、食べ物、栄養だけではなくて体を動かす活動的な生活も大事だと。結局この飽食といわれる時代に、どうやって健康に生きていくかということがテーマなんですね。

久保 今は、何をどういうふうにとればいいのかということを自分で考える時代ですね。

江澤 しかし、一般的にはあまり考えないのね。人間というのは本能的においしいものを食べて、楽をしたいものです。今はおいしいものはいくらでもある。だから自分の満足のためにおいしいものばかりを食べてしまう。そして体は動かしたくない。ボタン一つで用が足りる時代ですからね。一日に必要なエネルギーや栄養素をとるために三度に別けて食べるというのが規則正しい食べ方だし、体もそれによってよく働いてくれるわけですが、いつでも、どこでも、何でも食べられる時代となった今、朝は食べない、夜遅く食べて、夜遅く寝るから朝は食欲がない、だから食べないというように生活リズムや生体のリズムまでが崩れてくるわけですね。

久保 私のことを言われているようでドキッとしました。

江澤 いえいえ、そんなことをしていたら久保さんのように生き生きしていられないですよ。生き生きした表情とか目の輝きというのも、食べ方とか生き方によってできてきますからね。 
今の時代はむしろ大変だと思いますね。物がないときは、手に入るものをどう料理して食べようかと必然的に考えます。例えばサツマイモがある、これをどうすれば無駄なくおいしく食べられるかとか、とにかく頭で考えて自分で作った。それが老化防止にもなった。では今のように便利で何でもある世の中でどういうふうにやっていくか。まず楽しくなければいけない。例えばイワシのつみれを作ってみる。骨のある魚は嫌いだという人もこれはおいしいと言うかもしれない。牛乳が嫌いだという人がいると、お料理に工夫をして牛乳を使ってみる。おいしいと言われるかもしれない。苦労して、工夫してやって、おいしいと言われたらうれしいですね。逆においしくないと言われたら、今度はどういうふうにしておいしくしてやろうかとまた工夫してみる。小さいことだけれども常に考えて挑戦してみる。そういうことが楽しくなる。また張り合いもでてくる。目的をもって楽しくやることが大事ですね。

久保 個人的な興味で先生の食生活をのぞいてみたいなと思うんですね。先生のお話を聞いていると、さぞやすばらしい模範的な食生活をしていらっしゃるのかなと思うのですが。

江澤 いえいえ、そんなことはないですよ。基本は三度の食事は必ずとるということです。どんなに忙しいときでも必ずとります。これは、生活リズムや健康管理の基本となっていますね。ふだん食べるのは、簡単だけれども、主食、つまりエネルギー源になるもの、筋肉とか体をつくるための蛋白系の主菜となるもの、それから野菜類とか果物、ミルクといったものが何となくバランスよく入っているといったものです。細かくカロリーや栄養素を計算したりはしません。ただ、冷蔵庫の中はいつもうまく使いきるようにし、捨てるようなものは一切ありません。私は弟の家族と一緒に生活しているんですけど、義妹がすごくお料理が上手なんですね。家族の健康のことを考えて、よくこんなレパートリーがあるなと関心するほどです。食事は毎日のこと、家族はとても幸せですね。

久保 何を実践したらいいんでしょうかね。栄養素の話とかいろいろ聞くけれども、忙しい生活の中でカロリーを計算したりはとてもできないし、そういう中で何かここだけ気をつければというようなことがありますか。

 江澤 忙しい中では買物などもなかなかできないから、いつでも間に合うようなものも置いておくわけです。野菜でもタマネギとかジャガイモとか、日もちのするもの、そうでないものはゆでて冷凍にしておく。肉や魚介類なども冷凍にしておくし、食べて余ったものも冷凍にしておく。そういう中で主食系のもの、蛋白系のもの、野菜系のものというふうにとる。ミルクもいつも用意しておくのですが、切れたときのことも考えて、スキムミルクを常に置いておき、お料理に使うとか、コーヒーに入れるとか。子どもなどにはジュースの中に入れてあげてもいいですね。 
江澤先生近影私の母が96歳で昨年亡くなりましたが、ある意味で母の生き方を自然に受け継いでいるのかもしれません。母は自然にバランスのとれたものを、朝、昼、晩としっかり食べていた。母は、例えば、自分が風邪などをひいて体のぐあいが悪くなったら家族がどうなるかということを考えて、常に自分で健康管理をしていたんです。それも頑張ってやるというのではなくて、生活の中で自然体で実行していたんです。そのせいか晩年までとても元気でしたね。

久保 自然体にそれが実行できれば一番いいですね。
生活にリズムがあって、ふつうに食べたいものを食べることがそのまま健康的な食生活になっているということですね。


江澤 昔の生活の中で自分で考えてやってきた食事のとりかた、体の動かし方、生活のリズムといったものが身についていたんですね。でも今の世の中でそういう生活をするのは大変かもしれません。小さいときから良い生活習慣を身につけていないと、ある年齢になってからそれはいいから実行しようと思っても、よほどのことがないと生活のリズムを変えることはできないでしょうね。

久保 子どものころファーストフードばかり食べていたら大人になってもファーストフードから抜けられないとかね。

江澤 そうですね。最近は道端でベタッと座ってコンビニのお弁当なんかを食べている若い人を見かけることがあるけれども、コンビニのお弁当もある程度バランスが整っているのかもしれません。でもやはり食べる場所とかリズムとかも大切ですね。そういうところで食べると気持ちまで何かすさんできてしまうでしょう。

久保 食事というのは、何をいくら食べればいいということだけではなくて、そのシチュエーションというか、だれと、いつ、どこでとか、そういうものすべて含めた意味なんですね。

江澤 そうなのよ。例えばコンビニなんかで買ってきたものを食べるにしても、そのままポンと置いて食べるのではなくて、何か少しでもいい雰囲気をつくって食べるとかね。 昔の日本、そして今、開発途上国でも見られることですが、何か一つのものを兄弟で分け合って食べるとか、小さい子には大きいほうをあげるとか、そういうちょっとしたことからも、思いやりとか愛情とか、相手を思う心とかが伝わってとても幸せな気分になれたのね。

久保 私も発展途上国なんかにいくと、今でもそんな光景を目にすることがあって、そういうのを見ていると、豊かな日本に生きていて幸せだと思っていたけれども、もしかしたら彼らの社会のほうが幸せかもしれないなと感じることがありますね。

江澤 今の子どもたちを見ていると、そのお母さんたちから何とかしてやっていかないとね。でも今のその親世代を育てたのは私たちの世代なんです。私たちの世代がもうちょっと考えて、しっかりやれば良かったのですが、やはり時代の波にのってしまって、楽に好きなようにやっちゃったということなんです。そうして育てられた今の若い親たちが、自分の子どもたちにどういうふうにやったらいいかわからなくなっているのかもしれませんね。 
江澤先生近影今一番大事なのは感謝して生きるということですね。感謝する気持ちがなくなっているような気がします。私はよく学生に言うのね。今こうして勉強できるのは幸せなことよと。勉強したくてもできない人もいる。例えば経済的な事情で勉強できない人もいる、自分が病気でできない人もいる、家族が病気でできない人もいる。こうして毎日食事ができて、学校にきて勉強もできる、この毎日の生活が当たり前のことと思っていてはいけないんだと。朝家を出て、無事に帰れないことだってあるでしょう。だから毎日まいにちを、その一時いっときを大事にして、感謝して過ごさなければいけないと思うんですね。

久保 昔、祖母が、このお米は八十八の手間をかけてお百姓さんがつくってくれたんだよと話してくれましたが、そういう家族の状況も今はあまりなくなってきているんですね。  江澤先生を筆頭に、江澤先生ぐらいの年代の方が大事ですね。

江澤 私もそう思っています。うるさがられても言うことは言うと。私自身ももちろん完璧な人間ではないし、私も言ってほしい。私も気がついたことは言う。これは、自分自身にも言っていることなのです。

久保 言ってほしいですね。お話の最後に、先生から今後に向けての提言というか、そういうものがありましたら一言お願いします。

江澤 やはりいま言った感謝するということに尽きるでしょうね。もう一つ、私はいま机の前に張ってあるものがあるんです。何かというと、「朝は希望に起き、昼は努力に活き、夜は感謝に眠る」と書いてあるんです。いつ、どこで手に入れたのか覚えていないんですけど、この間整理していたら出てきて、とてもうれしくなって大事に机の前に張ってあるのですが、昔これを手に入れたときにはそれほどにも感じなかったのでしょう。今はその言葉がとても大事だと思うんです。以前のことですが、80歳以上の人が集まったあるパーティーで、93歳の人が、「毎朝、今日も元気で起きられたというのがうれしくてうれしくて……」と言われたのね。それがしみじみと重みをもって思い出されてね。

久保 すばらしい言葉ですね。早速私も今夜から実戦したいと思います。今日はお忙しい中をどうもありがとうございました。

「江澤先生のインタビューを終えて」 ー久保美智代ー

  細身で小柄、大きなメガネがトレードマークの江澤先生。

 40年の研究で確立した信念と多くの経験を基に発せられる言葉は説得力がありました。

 『時代は変わっても、日々の食事に「感謝」することが大切』と、物のない時代を生きた先生から私たちへのメッセージです。

 ほしいものがすぐに手に入る現代の生活では、忘れられていますが、実は基本的で大切なことを気づかせてくれるお話でした。

マスコット犬

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