| 博 今日は木へのこだりというか、いま建具の業界がどういう現状になっているかとか、そんな話を聞いていこうと思います。
最初は歴史からいきましょうか。この仕事はいつごろから始めたんですか。
八郎 今72歳だから、独立してから50年近くなるかねぇ。
あのころは高度成長期だし、新潟地震があったし、今と違って住宅には必ず和室が2部屋ぐらいあったし、まだサッシもない時代だったから仕事がいっぱいあって、非常に順調だったね。
博 アルミサッシが出始めたころがひとつの転換期なのかな。それはいつごろ?
八郎 サッシが出始めたのは35年ぐらい前かな。それでもまだ住宅もわりに広かったし、日本の木を使った建物が好まれていたから、一軒の家で
100枚ぐらいの建具を使ったんじゃないかな。今でもうちでやっている高田建築のものだと既製のメーカーのものは使わないから、内部だけでも70〜80枚はあるからね。
博 既製品を使うと値段が相当安いわけ。半分ぐらいになるの?
八郎 安いねぇ。我々がつくると戸1枚で2万円もかかる。それに大工さんが枠をつくるとそれが5000円とか1万円かかる。 今は根っからの大工さんとかが少なくなって、不動産屋とか素人みたいな人が営業して仕事をとって下請けに投げるという時代だから、既製品を入れてしまえばわりに利益が上がるんじゃないかねぇ。
博 既製品の建具と本当の木を使った注文の建具ではどこが一番違うと思う?
八郎 既製品ではデザインにしても何にしても独自性がないね。大量生産だから。それに本物は湿度の調節とか空気の出入りとかがあって何よりも健康にいいんだね。それから本物の木を使った建具は長もちするし、古くなればなったで味が出てくる。いいところがたくさんあるよ。木目や木肌のおもしろさもあるしね。ベニヤ細工みたいな印刷ものでは、手あかがついたりシミが出てきたりするけど、本物は時がたつほどだんだんよくなるからね。
我々が家を建てた時代には、2代も3代も、何百年ももつように考えて建てたけど、今の人は借金が終わらないうちに壊すような家を建てているんじゃないかと思うね。アパートの家賃がいま幾らだから、返済が幾らだったら自分の家が持てるとかいうことで。いい柱を一本父親が出してくれたとか、そういう建物じゃなくなったね。建物に対してこだわりがなさすぎるんじゃないかねぇ。
返済に追われてなかなかこだわったこともできないんだろうけど。それに今は建てる世代が若くなったね。少し前はある程度年配の人が建てたけど。
博 今はローンを組んで建てる人が多いから、逆に年を取ってからではローンが組めないんだよ。
それに今回我々も家を建てて思ったけど、みんな忙しいから、実際に一つずつ建具のデザインを考えるような時間がないんだよ。例えばこういう建具が欲しいとかいうことは考えも及ばない。利益主導型のデベロッパーに任せてどんどんやっちゃう。こだわって、ここにはこういう建具をというふうに考える余裕が昔はあったんだろうけど、それがなくなったんじゃないかな。いま建てれば金利が安いから急いで建てなきゃとかね。
八郎 そうそう。去年の暮れごろも、国の政策で来年から金利が変わるから今年じゅうに建てたいという人がだいぶいたみたいだよ。あれはまた延長になったようだけど。
我々はむくの木ばかり使っているけど、今の30坪ぐらいの小さい家に住んでいる人は、私にいわせるとビニールの袋を2枚かぶっているようなものだね。建具はビニールだし、壁はクロスを張っている。高断熱、高気密なんていうけど、外壁の内側にビニールを張っているんだからね。それで24時間換気とかで換気扇をずうっとつけておきなさいとかね。そんなむだなことをしている。共働きで窓を開けるチャンスも少ない。そういう密閉した家に住んでいたらおかしな病気になるのは当然だと思うよ。
博 我々も木の建具にして、そこからすきま風が入るほうがむしろいいと思ったのね。ビシッとパッキンでとめるとか、そんな必要はないなと。
八郎 その辺の考え方なんだよね。本物を木を使えば割れとか縮みとか、どうしても出るんだから。
博 本当は地元で育った木を使って建てるのがいいんだろうね。
八郎 それはいいんだけど、高くてなかなか使えないんだよ。まず人件費が高いし、ちょっと山奥の木を切り出すには道路をつけなきゃいけないし。
だけど実際は節のあるものを使ったりするとそう高くはないんだよ。節のないいいものを使えば何倍もするけど、本物のこだわりで、節はあってもいいとか割れは気にしないとかいうことで安く上げる方法もいろいろあるんだけどね。
今は大和ハウスのチェーン店みたいものができて、結婚式場なんか中国製の建具が入っているんだからね。日本が指導して中国でつくらせる。デザインも寸法も大体同じものをつくるわけだし、チェーン店だから半年も1年も前から計画的に発注できるわけだよ。
博 そういうのは見た感じはどうなの。
八郎 俺は見ていないけど、結構いいという話だよ。
博 そういう意味で日本の建具の特徴というのは何だろうね。
八郎 我々は大きさも形もその部屋に合わせてつくるから、その家ごとの特徴が出せるんだね。既製だと高さも幅もみんな決まっているわけさ。本当は土地も建物の形もデザインして設計したなら全部違うわけだけど、今は逆に既製品に合わせて建物をつくるている。10軒建てたら10軒とも同じような戸が入っているよね。
博 例えば金属は金属、アルミはアルミ、プラスチックはプラスチックのいいところがあるはずだし、アルミならアルミの色のまま、金属なら金属の光沢をそのまま残せばまだいいのに、木のふりをするというか、木の模様をつけたりする。クロスも本当の紙ならいいのに、和紙とか昔ながらの紙を張ればいいのに、ビニールでコーティングしたり、土壁ふうにしたり、木肌を真似てみたりする。そういう偽物みたいなのは非常によくないなとぼくは思うのね。
八郎 例えば玄関の戸でも、アルミで木を真似たようなものにすると、掃除をしなくてもいつまでも新しい感じがするんだよ。木の古くなった感じがかえっていいと思うんだけどねぇ。クロスも出始めのころは織物とかいろいろなものがあったけど、今はビニールの安物のクロスが主流になってしまった。
そしてミサワでも積水でも、単価がものすごく高い家でも仕事をする職人は同じ人だというね。何が違うかというと、デザインも多少違うかもしれないけど、照明の傘とかドアの把手とかがちょっと高いものになるとかとかだと。
ふすまの引手でも、今はプラスチックとか鉄板をガシャッとプレスしたものが主流だけど、ある家の建具をやったときに、手造りのものをつけてつけてくれと言われて入れたんだよ。一つ4万ぐらいのものを20個ぐらい使ったかな。彫金で、鳥とか花を彫って金とか銀を埋めてあって、値段もいいけど立派なものなんだよ。そうしたら、これは模様がちょっとずつ違うじゃないかと言うのさ。手造りだから違うのは当たり前だよと言って最後は納得してもらったけどね。その辺が手造りのおもしろさというかいいところなんだけど、そういうものがわかる人も少なくなったね。
博 博 一つは、家を一戸建てるにはいろんな職人さんが来るけど、一般の人はそれぞれの職人さんの仕事がわからないんだよ。それぞれの職人さんが一般の消費者と話をして、わかってもらえるような環境をつくっていけば、昔ながらの本当の手造りのものが残るんだろうけど、たぶん高度成長のときに忙しかったからそういう文化がなくなったんじゃないかな。一般の人は、例えば建設会社の現場監督としか話したことがないから、何が本物なのかかわからない。安くて印刷ものできれいなものがいいと思ってしまう。みんながもっと職人さんと話をすれば、こういうものがいいんだということが勉強できるんだけどネ。
八郎 現場監督も、何十年もやってきた人というのは少ないのね。最近は特に専門校を出たばかりの人とか、全然わからない人もいるのよ。
例えば桑の引手というのは染色してあって初めは真っ黄色なのよ。ある注文主が絵柄を見てあれがいいと言ったらしいんだね。それで入れたら、真っ黄色なものがついていると、こんなのを頼んだんじゃないと。それで監督が、あの引手を別なものにかえてくれとお客さんが言っていると言ってきた。何言っているんだと。これは今は染色してあっててこういう色をしているけど、時がたつとだんだん色変わりしてチョコレート色になるんだと、そういう材質のもなんだと。それでもというならプラスチックの10円ぐらいのにでもつけかえてやるから、そこをよくお客さんに話をしなさいと言ってやったんだ。そうしたらプラスチックのものより木の本物のほうがいいということになったけど、説明しようにも説明するだけの知識がないんだね。
それに職人は建て主とほとんど会わなくなったからね。昔は会う機会があったけど、今は接触する機会が本当に少なくなった。今は大工さんじゃなくて不動産屋みたいな人が仕事をとってくる時代だから。
博 今はスーパーの野菜でも何とかさんがつくったニンジンとかいっているけど、既製品じゃないものはそういうふうに顔が見えるようにしていくのも一つの作戦じゃないかな。
八郎 名前を入れるぐらいのことが必要なのかねぇ。
つづく>
************************* お二人の話はまだまだ続きますが この続きはまた次回に掲載いたします。 |