第14回「最近の石油情勢」
2008年4月例会 幹事:木村 勉

  講師:新日本石油開発株式会社 副社長    河野 廉(コウノヤスシ)
  講師:新日本石油株式会社 海外調達部部長 藤原 佳代(フジワラカヨ)
   最近の国際原油価格の高騰の実情とその要因などについて、質疑応答を含めた内容を以下にまとめました。説明に使われた図表・グラフなども差し支えない範囲で掲載しました。 

[河野講師]
  「この三水会で、1989年に当時の石油情勢についてお話したことがありますが、 今日は この テーマに最適な藤原君(新日本石油で唯一の女性部長)に話をして貰うことが良いと思います」

[藤原講師]
  当社(新日本石油(株))は、日本の原油(以下石油)消費量の1/4の量を輸入していて、それは 毎日毎日VLCCタンカーで半分の量に達します。最近の石油価格の高騰は、大変困っているので、何故高く成ったのか、その辺りについて、お話したい。


                     《 目 次 》

1.石油価格の推移
2、なぜ、このような高騰が起きたのか
3、石油生産コストの上昇
4、資源ナショナリズム
5、石油の供給不安

 6、石油資源の枯渇不安
 7、石油の需給関係
 8、民主主義・日本の心配
 9、今後の価格予想
10、質問に答えてー河野講師

1.石油価格の推移
 WTI価格というのは、ニューヨーク(NY)商品先物取引市場での価格で、世界の石油価格の指標です。バレルというのは、159リットルの「樽」で伝統的な石油の量の単位で、1バレル100ドルというのは、1リットル70円位になります。これは、水や牛乳と比較すると、高いか安いかは人それぞれでしょう。これに運賃・精製コスト・関税等の税金・マージンを加えると120円程度になり、決して儲かる商売とは言えない。グラフに見るように、2004年ころまでは、バレル20〜30ドルであったのが、3倍にもなりました。


2.なぜ、このような高騰が起きたのか

  まずは、主として中国・インドの需要が増大して現物需給がタイトになつたことに併せて昨年の秋から「石油市場の構造的変化」が生じたことによる。その変化の要因は、従来から引き続いた産油国の不安要因、OPEC諸国の価格維持指向に加えて投機資金が大量に石油市場に流入したためで、米国のサブプライム問題対策として、インフレの危険を含みながらも金融緩和政策がとられ、国際的なドル安を結果し、オイルマネーなどが商品先物取引市場に向いたからである。

 商品市場の大きな部分は、小麦・とうもろこし・砂糖であるが、新興国の経済発展に必須な石油の価格上昇を期待して、投資・投機資金が流れこんだわけである。米国を中心にした年金資金は、総額で2000兆円にも達し、オイルマネーも400兆円あり、その○.1%でも流入すれば15兆円規模のNY市場が振り回されるのは当然。しかし、この「ファンド」は決して悪者とは言えないので、米国南部がハリケーンに襲われ、精油所がストップした時に石油を売ったのは、このフアンドであり、これが無かったら現物相場は青天井になつたかもしれない。

 WTIの指数は、2006年を100として、2008年は80%上昇し、一方ドルは主要通貨に対して20%下落している。このWTI先物価格は、2005年では50ドル/バレル、2007年では60〜70ドル、2008年4月では100ドルまで上昇し、実需価格の5〜6倍となつており、石油を増産すれば良いかのように思われるが、新規に油田を開発して生産までには10年もの長年月が必要であるので当面の需要増大には応えられないのである。


3.石油生産コストの上昇

 @資材(セメント・鉄鋼)の価格上昇 Aマンパワーの不足(20〜30ドルの石油価格が続いたのでエンジニアが離れて減少) B新油田の採掘困難性が増えたこと C資源ナショナリズム(外資参入障壁)などの要因がある。2000年を100として生産コストの指数を見ると、2004年は110、2007年には200。これは、稼働中の油田のコストが15〜17ドルであるに対し、採掘困難油田のコスト増に加え、ロィヤルティ・税金費用の増などで、例えば海底油田では60ドル以上が必要となってきた。また、非OPEC諸国の増産も困難であり、2015年にはOPECのシェアは47%に達すると予測されている。

 


4、資源ナショナリズム

 現生産量の70%はそれぞれの国有企業が保有し外資の参入は困難、14%はロシヤ企業が保有し同じく参入は困難、6%は各国営企業との共同保有が可能ではあるが、利益は少なく、残り7%をめぐって国際的な企業競争が繰り広げられているという厳しい条件。

中国・インドは、政府レベルで資源外交を展開しているが、我が国はそこまで政府が動かず、民間の努力が大半であり、石油消費の節約、エタノールなどの代替燃料の開発が重要。(いわゆる石油ショック時よりも現在の方が消費量は減っている)。売る物が石油しかない産油国側としても、消費国の行動には警戒感を持ち、需要保証を求めてくるのが
現実。



5、石油の供給不安

  いわゆる投機資金筋の心理的不安要因として
@イランでは、核開発問題の国際的疑惑から空爆の 危険があること
Aナイジェリアでは、石油利権をめぐる政府と反政府側との争いから
  石油施設の破壊の危険があること
Bイラクは、現在も石油を生産・輸出しているが、治安問題・軍事的衝突による
  危険があることなどが懸念されており、これが先物価格の高騰の一要因ともなつている。


6、石油資源の枯渇不安

 結論的には、現消費量のレベルで220年はあると信じられる。採掘可能量については、
2000年当時も40年と言われ、1990年当時、1980年当時も同様40年と言われていた。
それが現在も40年と変わらない。これは、ひとえに探査・採掘の技術進歩のお陰である。
資源としては、通常の油田(海底など困難はあるが)の他に、オイルサンド(砂と石油の混合物)、オリノコ重油(アスフアルト状のもの)、オイルシェール(油が岩に溶け込んでいるもの)などがあり、一部はすでに開発されている。


7、石油の需給関係

 2004年の全世界の1日当たりの需要量は、8250万バレル、供給量は8340万バレルであったが、毎年平均1.5%上昇し2008年の予測では需要8720万バレル、供給8790万バレルである。この需要のうち70%は輸送用(乗用車・トラック・船舶・航空機)であり、殆ど代替できない。自動車について言えば、米国は1000人当たり800台保有しているが、中国は同じく18台、インドは7台であり、また、非OECD諸国も車両保有台数は伸びており、これらの国が高い石油を使って自動車を増やすことが、なぜ出来るのか、これら国の70%はガソリンに補助金を出していることで可能になっている。

  補助金のない先進国は、省エネの努力をしており、需要は伸びていない。全世界の需要の1/4を占めている米国は依然として高い伸びをしてきたが、ここのところ、1ガロン1ドルが3ドルにもなり、景気の足踏みで陰りが出てきている。しかし、依然として在庫がつみ上げてられており、OPECは、消費国の増産要請にも、需給の実需バランスは均衡している、在庫を積み上げるだけではないか、もし増産しても逆にギャップが出るだけだと、増産しない姿勢である。

  OPECの生産コストは、ほぼ70ドルで110ドルで出荷して大きな利潤をあげているが、人口増加率4%を抱えて失業が多いにもかかわらず、手厚い失業手当を出している。これは、失業者が不満を募らせ暴動など社会不安が生じて、王制または独裁制が崩壊する危険を引き起こさないためというお家の事情があると考えられる。しかし、如何にしてもバレル110ドルは行き過ぎではないだろうか。

8,民主主義・日本の心配

 経済成長ー民主主義という関係が発展の筋道であり、時間とコストがかかるのは仕方ないと考えてきたのが民主主義・日本である。しかし、王制・独裁体制では、民主主義でなくても良い、資源開発独裁でも可なりとならばどうなるのか、世界史的な問題ではなかろうかと思っています。


9、今後の価格予想

 今年中は100ドル/バレルの水準だろうと思います。米国の景気が戻れば60ドルくらいに収まるかもしれず、長期的には70ドルくらいで安定するのではないかと考えられます。







[質問に答えてー河野講師]

1.SWF(ソブリン・ウエルス・ファンド)は、リビヤ・ロシア・中国など独裁的国家の問題です。

2.石油産業には、上流(探査・採油)と下流(精製・製造)があるが、メジャーは上流で利益率がよい。
精製企業は、7%を取り合っている。開発は、技術者不足で難しい。当社(新日本石油開発)は、メキシコ湾、北海、マレーシヤ、ベトナムで探査・開発しているが、探査・採油は2000メートルの海底を更に2〜3000メートル掘らねばならない。1本の油井に約150億円かかるが、石油が出なければ全損になる賭博的なところがある仕事です。また、海上に「リグ」を設置する借用料は1日40万ドルする。既存石油会社の買収も競争関係が厳しく、自由な活動の出来る中国政府と違って民間には対抗することが出来ない。

3.石油は、どの地域・国から買っても、価格は一つ、WTI価格に収斂せざるを得ない商品です。米国という巨大消費国が価格決定権を持っていると考えねばなりません。
輸入にはね長期契約とスポツトがあり、かつては、異なうこともあつたが、現在は、すべてスポツト価格に収斂しています。

4.補助金を出しても先物価格では買い切れなくなれば、また、米国のような消費国の需要が下がれば、高騰した先物価格は、いつかは実物価格に一致すると思う。その時、先物取引で損害を被るファンドが出てくると予想されます。

5.オイルサンドについては、当社も権益を持つている。、オリノコ重油はチャベス政権が抱えており、参入できない。オイルシェールは技術者が不足で着手できていないのが実状です。

6.米国は、石油生産国でもあるが、輸入量の10%くらい生産しており、アラスカには相当な資源があり、ブッシュ大統領は開発したいようだが、自然保護の観点から着手出来ないので、カナダのものを輸入しようとしています。
                                                        以上