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1)FTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)と国際競争力
まず自由貿易協定(FTA)・経済連携協定(EPA)に対する考え方でありますが、私は、自分のキャリアからしてリベラリスト・グローバリストを自認しており、こうした、市場を透明度を以て開いていく協定には前向きに対応していくべきであると主張しております。
日本経済は、戦後の復興期の二桁成長を経て、1970年からの約20年間も年率4%前後の右肩上りの安定成長を達成してきましたから、長い間に亘ってGDPの増分を分け合えば、企業の業績も上がり国民の生活も年々良くなりました。しかしバブル経済崩壊後はゼロ成長、良くても2%台の低成長になり、もはや高度成長を期待することはできないという転換期を迎えております。そして外国とのかかわり、すなわち貿易・海外事業により経済を活性化するニーズが高まっております。
そこで国際競争力が問題となります。ただ巨視的にわが国全体としての国際競争力を判断するのは非常に難しいので、調査機関によって評価結果にバラツキがあります。そんな中、最も権威があるとされるスイス・IMDの調査では、日本は89年から93年までは1位を誇っていましたが、98〜04は20位以下に低迷しました。その後は若干回復したものの2006年の12分野110項目の評価では131ヶ国中、総合順位で16位にとどまっております。
一方、二国間または地域内のFTAについては、日本は多国間WTO協定にこだわってきたため、90年代後半から急速に増え続ける世界の流れに後れをとってしまいました。
世界のFTAは、現時点では210件以上にもなっていると言われておりますがわが国の発効又は合意済の協定は9件のみであります。
FTAの後れだけが国際競争力の低迷に直接影響しているとは言えませんが、少なくともWTO交渉が予定通りに進捗しない中、FTAとくにEPA(モノ・サービスの貿易自由化のみならず投資ルールやヒトの移動等を含む広範囲の協定)の早期実現が相手国との関係安定化と予見性確保により貿易の振興、投資の促進に寄与し、自然人の自由な移動によりグローバル化への対応力を醸成して、わが国の国際競争力の強化につながることについては異論はないと思います。
特に、国の国際競争力は個々の民間企業・社員個人の競争力を反映するので、ヒト・文化の交流が、相互の意思疎通、多様性の受容を加速することにより経済活性化の鍵になるに違いありません。共に取り組もうという協働の精神が芽生えます。ただFTA・EPAが締結されても、それが産業界に十分活用されなければ実効
が上がりません。各企業がFTA・EPAを十分勉強し、当該市場への取組みの戦略を策定してアクションをとることが肝要です。その戦略は、製品の仕様・品質・価格・納期等の競争力確保のみならず、海外事業力・最適ビジネスモデルを含むものでなければなりません。産業界の出番であります。私はそのように考えております。
2)日本のEPA戦略の評価−成果と課題
WTO協定の交渉は、加盟国が151ヶ国に増え、しかも全会一致のコンセンサス方式をとっているため、先進国と途上国の利害対立、農業政策の乖離(米−国内生産支援・EU−輸出助成・日本−高関税障壁維持)などがあって予定どおりには進みません。ウルグアイ・ラウンドは3年の予定が8年になり、2001年11月に開始されたドーハ・ラウンドも2005年末終結の予定が、今年3月末の合意もむずかしい状況になっています。
このような状況の下、二国間又は地域内の自由貿易協定が’90年代後半から急増します。WTOに通報されたものだけで、1990年の27件から2001年には160件、2007年には210件以上と報じられていること既に述べた通りであります。(数え方によっては380件になるという報告もあります。)
ところが、わが国のFTA・EPAは発効しているもの5件、合意済のものを入れて9件のみ (交渉中及び研究協議中−6件)でありますから、EUの22件、米国の19件と比べても少ない。EU・米国のFTA・EPA締結国との貿易額の割合がそれぞれ23%・31%をカバーするのに対し、わが国のそれは14%ですから相対的に劣後になります。貿易相手国との間にFTA/EPAがないための不利益(競争条件、収益性)も顕在化しつつあります。
日本政府も、ここ数年は後れを取戻しキャッチ・アップするべく、WTO協定交渉と併せて、FTA・EPA交渉にも極めて積極的に取組んでくれております。産業界は政府の方針変更と最近の尽力を多としているところであります。
また、取組方針として、
(1)モノ・サービスの関税削減を中心とするFTAにとどまらず、投資ルールの構築、自然人の移動、紛争処理、SPSなどを含む、質の高いEPAの締結を実現していること
(2)貿易・投資の比重が高い東アジア諸国とのEPAに優先的に注力していること、ASEANと国を超えたリージョナルな協定取組みにも成功したこと
(3)エネルギー資源の安定確保体制を意識してチリ・豪州・GCCなど資源保有国とのEPAにも踏出したこと、これらについては大いに評価されるべきであると思います。
しかし一方で、わが国は農産物等自由化にセンシティブなアイテムについては守りの姿勢が強いため、又、ヒトの流入には高い壁を立てるため、必ずしも思うようにEPA交渉が進捗しない、進捗しても望ましい条件がとれないという問題があります。
既に発効済のEPAでも、例えばシンガポールの市場開放度(モノの輸入金額の関税ゼロの割合) は100%ですが、わが国は94%、メキシコの場合は先方の98%に対し、わが国は87%、マレーシアでは99%に対し日本は92%、チリのケースでは相手側の99.8%に対し、当方は90.5%です。農業等を守ろうとすると、工業製品の輸出について有利な条件がとれないのみならず、交渉そのものがまとまりにくいという悩みがあります。
ヒトの流入に壁を立てる点についても、フィリピン・タイ等の途上国からとくに問題にされております。私は常々、これからの日本経済活性化の鍵は「多様性の受容」と申しており、前にも述べたとおり、人材の交流によってコミュニケーション、異文化理解と協同の精神が促進され涵養されるならば、わが国のグローバル化への対応力は高まると考えております。
3)日・ASEANのEPAと東アジア経済共同体構想
日本は、アジアにおいてシンガポール・マレーシア・タイとのEPAを発行済とし、フィリピン・ブルネイ・インドネシアとのEPAで既に原則合意を得ています。又、ASEANとのリージョナルな協定について、昨年11月に最終合意に達しました。さらに韓国・ベトナム・インド・オーストラリアとのEPAについて交渉中であり、スイス・GCCとも研究協議中です。一方、韓国・中国は2010年までにASEANからの輸入関税を大部分の品目について削減するなどFTA戦略に積極的に取組んでいます。これらの協定の実現により、この地域での貿易、投資が活発化し、東アジアの国々の経済力が向上することが期待されます。
その場合、わが国が惜しむことなくその促進に協力して東アジアの国々がより豊かになれば、それだけ市場が大きくなり、拡大した市場で、わが国も生産財や中核部品の供給等を通じて利益を享受できることになります。
ASEANとのEPAに関する最終合意では、先行6ヶ国と新興4ヶ国(ベトナム・ラオス・カンボジア・ミャンマー)の発展段階の差が大きいので、日本側は発効と同時に金額ベースで90%以上を無税化しますが、(3%を5−10年かけて関税撤廃)ASEAN6カ国は10年以内に90%以上の関税の撤廃、ベトナムは15年以内、他の3カ国は18年以内の撤廃を約束することととなりました。この日・ASEAN―EPAが発効すると東アジアにおいて最適地で最適部品を生産するという分業体制が促進されます。なお、大生産基地になっている中国が加われば更に有効ですが、中国は社会主義市場経済という特異な体制をとっていますからいろいろと難しい問題を抱えております。従って、今すぐに一挙に東アジア経済共同体への議論を進めるのは難しいかも知れません。
それでも経団連は去る10月、日本−ASEAN、韓国−ASEAN、中国−ASEANのFTAを糾合してASEAN+3(日中韓)の地域経済統合を推進する、或いはASEAN−インド、ASEAN―豪・NZのFTAを促進して一挙にASEAN+6(3+印・豪・NZ)の地域経済統合を推進する、そして、その検討のために官民合同会議を設立するよう提言しています。
これは、すでに東南アジア諸国連合=ASEANが実際に存在し、日本企業の進出も寄与して国境を越えた生産分業が着実に進行中、域内貿易比率が1980年の33%に比べ今では輸出54%、輸入60%にもなっていますから、既に「実質的経済統合」が進んでいるという認識に基づく考え方でしょう。慶応大の渡邊教授が言われるように、EUやNAFTAのような法による制度先行型の統合(De-Jure Integration)ではなく、ビジネスの実態先行型の事実ベースの統合(De-Facto Integration) です。 経済産業省も2007年から遅くとも10年以内には東アジア経済圏の構築を目指す工程表を発表しています。
ところで、米国にはNAFTAを米州全体のFTAAに拡大しようとする動きがあり、EUは既に加盟国を15ヶ国から27ヶ国に拡げましたが、その更なる深化と拡大に挑戦しようとしております。
世界経済における米州・EU・アジアの三極のトライアンギュラー・バランスこそ将来の望ましいかたちとするならば、アジアだけがバラバラでは安定しないのですから、アジア経済圏統合に向けた議論は可及的速やかに始動すべきものと考えます。
その場合、発展度合を斟酌した段階的自由化、所謂「ASEAN方式」の要請や社会主義を守りながら市場経済化に挑戦する中国やベトナムの事情に対して、わが国が柔軟に対応する姿勢を示していくことが肝要と思料します。
4)日・米―EPA、日・EU―EPAの意義
前述のとおり、世界では、モノ・サービスの関税引下げ中心のFTAから、投資ル−ル,自然人の移動などを含む、より包括的なEPAへの展開に併せて、資源エネルギー・食糧の安定確保をも企図するEPAが増えており、日本もその方向へ踏み出すことになりましたが、これは来るべき熾烈な資源・食糧獲得競争への対応の狙いがあってのことです。そうして、その次の段階が、最も重要な貿易相手国・投資対象国である米国・EUとのEPAの検討であります。
わが国にとって米国・EUは第1・第2の輸出先であり、直接投資先であります。2006年の数値ですが、輸出は対米16.9兆円(全輸出の23%)、対EU10.9兆円(15%)、FDI残は対米18.6兆円(全対外投資の35%)、対EU14.1兆円(26%)でした。 米国にとっても、日本はNAFTA以外では最大の輸出市場であり、中国に次ぐ第2の輸入先、FDIも日米間が最大です。
EUとの関係もお互いに重要な貿易投資の相手国となっております。
また、米国・EUとは、相互の経済依存度が高いだけでなく、民主主義・自由経済・法治の価値観を共有するので、日・米、日・EUの交渉は案外円滑に進むかも知れません。
しかしながら、日・米にせよ、日・EUにせよ、経済規模が巨大ですから、(Ex.日米の経済規模を合わせると世界の約40%を占める) WTO体制に与える影響は多大であり、この点を慎重に考える必要があります。
また、日・米EPAについては、日本は、例えば牛肉・小麦は5割以上を米国に依存しており、安全保障面でも全面依存の関係ですから、米側からは「普遍主義」の論理で、日本独特の文化を排除して、金融主導の超効率主義で押しまくられる心配があります。また、農産品市場の開放を強く求めてくるものと予想されます。
EUには固有文化を尊重する、特化を認める協調主義のベースがあるものの、EU諸国の日本に対する警戒感は根強く、関税撤廃や標準規格・環境安全基準等について、かなり難しい問題が出されそうです。
それでも産業界を代表する経団連は、2006年11月、日米EPAについて共同研究の開始を求める提言を発表しました。日米EPAが締結できれば、世界に日米関係重視のメッセージを強く示すことができますし、既に米国とFTAを結んでいるシンガポール・チリ・豪州、協定締結に合意している韓国との競争上の劣位を回避することができるからです。マーケット・アクセスでも、高関税品目(乗用車・商用車25%、鉄鋼・チタン15%等)の関税撤廃のメリットは大きく、又、アンチダンピングの発効制限、環境基準の統一整合化、安全保障の確保等々も期待できるからです。
そして、経団連は昨年6月に、EUとのEPAに関しても同じく共同研究の開始を求める提言を行ない、その後ドイツ産業連盟(BDI)との共同提案を発表しております。EUの高関税(乗用車10%、家電エレクトロニクス14%等)が撤廃され、投資・知財権・環境などのビジネス・エンバイロンメントの改善が期待されるからです。
日・米間、日・EU間のEPAが少々時間はかかっても実現するならば、その頃までには東アジア経済共同体の議論も成熟すると思われ、日本が今後の成長市場のアジアと米国・EUとの間のブリッジ機能を果すことができるのではないかと考えるのであります。
なお、経団連は、このような一連の戦略的アプローチを加速実現していくために、自らも経済連携推進委員会を発足させると同時に、政府に対して省庁横断的司令塔として「対外経済戦略推進本部」の創設を求めていることを付言します。
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