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はじめに
−中国とのかかわり
私の中国とのかかわりには浅からぬものがあります。まず、私は東北地方(旧満州関東州)の大連で生まれ、13歳までそこで育ちました。第2に、父親が満鉄傍系会社の管理職にあったため、戦後、資本家の走狗といわれて苛められましたが、元部下の中国人に助けられ、‘47年1月一家6人無事帰国できたという事実があります。第3に日中国交回復直前に三菱三首脳が招かれたとき、3人の随員の1人として同行、周恩来総理のご高説を直接拝聴して感動した経験があります。第4に三菱重工の宝山製鋼、大連・福州発電所の建設に一部参画したことがあります。第5に、三菱総研に移ってからも国有企業民営化や国家の経済予測システム構築に協力する機会を得ました。
したがって、私には、中国に対して特別の思い入れがあります。それだけに、いつも親中の色眼鏡で中国を見ないように心がけております。
さて、現在も私はグリーンアームというベンチャーの事業を手伝っております。ここでも中国とかかわりがあり、その関係で昨年5月以降何度か訪中の機会がありました。今日は、この会社で新たに顧問として委嘱した城島さんの引廻しで、実地に見聞したところの一端を含め、最近垣間見た、または聴取した中国の現状について私見を申し述べてみたいと思います。もし一部でも皆さんの中国理解の参考にしていただけることがあるならば幸甚であります。なお、国内の権力抗争と軍事関係については情報が不十分ですから、今日は触れないこととさせていただきます。
2. 中国経済の光と影
−報じられる中国経済の躍進と実際の状況
最近の中国経済の躍進、光の部分については、毎日のように、新聞各紙・雑誌やテレビで報道されておりますから、改めて私からくどくどと申し上げることはないと存じます。ただ、後段の影の部分つまり安定成長のための問題点・課題のご報告の前段として、光の部分に関しても一応整理しておきたいと思います。
まずは高度成長の持続であります。中国政府にとっては、一党独裁の現体制維持のために市場経済化を進め高成長を続けることこそ重要であり、それを最大の眼目としていること、ご承知のとおりであります。中国のGDPは名目では約325兆円、米・日・独に次いで世界4位です。政府は経済の過熱を恐れ、ある程度ブレーキをかけようとしていますが、結局は微調整に止めるしかなく、実質10%前後の高成長が今後も続くものとみられます。
外資系企業の輸出促進と加工貿易がドライヴィング・フォース(55%)となり、昨年も輸出が大幅に伸張し、貿易黒字は1,774億ドル(約21兆円)を超えたと報告されております。外貨準備はとうとう1兆ドルを超えました。
次に紙上を賑わせているのは中国の政治力・外交力です。WTO協定や二国間自由貿易協定の交渉では積極的に存在感を示しておりますし、北朝鮮との6カ国協議でもリーダー役を務めています。アフリカはじめ途上国協力でも最高幹部が精力的に動き中国の力を誇示しています。資源確保戦略をトップ主導で広く世界的に展開していることも度々話題になっています。
国内では内陸部開発と三農問題(農業・農村・農民)への政府の取り組みが奏功しつつあるといわれます。農村の所得向上と内需拡大の兆しがあるとすれば、明るいニュースです。
もう一つ、政権の安定化が注目されます。まだ途中過程とはいうものの、胡錦涛―温家宝の現体制は、江沢民の影響力を徐々に排除することに成功しつつあります。
このようにプラスの面ばかりを並べますと、中国経済はまさに順風満帆のようにみえます。しかしながら、例えば高度成長政策は、所得格差の拡大や土地収用問題、環境破壊などの歪みを露呈しつつあります。外貨準備の膨張は為替相場への外圧を強め、又、ドル下落の場合のリスクを高めています。
一党独裁と一部エリートによる不透明な行政・ビジネスの慣行が国民の不満の鬱積を招いています。資源戦略も必ずしもすべてが具体的成果に結びついてはいないようで、特に鉱物資源・食糧の不足は深刻です。
外需依存・外資依存の経済の限界も問題視されつつあります。政府は、知財権・コピー、人治万能社会、人権といった評判リスクへの対応にも大童です。
やはりこうした影の部分をどのように解決していくのかが、中国にとって今後の大問題であります。これらを、これからの中国の安定成長の課題として捉えて実情を考察していきたいと思います。
3. 安定成長の課題
―高度成長と格差拡大
まず目の当たりにしたのは、貧富の格差拡大の加速です。
先程も述べたように、中国政府は、一党独裁の現体制維持のために、市場経済化を進め高成長を続けることを企図しています。今の体制下で国の経済力が年々向上して人々の生活水準もどんどん良くなることを国民に示したい。事実‘05年は10.2%という実質GDPの伸びを達成し、高成長を実現しました。’06年も、中国国家統計局が対前年度比10.7%の伸びであったと実質ベースの数値を発表しました。今年、07年も10%前後の高成長が続く見通しといいます。
ところが全体として高成長を確保し続けるためには、先富論 (これはケ小平氏が使った言葉)と称して、伸びないところを犠牲にしてでも伸ばせるところを重点的に伸ばすことになり、その結果は、沿海州と内陸部、都市と農村、都市部でも富裕層と貧民層の所得格差を拡大することになっています。中国の格差問題は、世界のなかでも際立っています。例えば、北京の一人当たりGDPは貴州省の約10倍です。日本では東京都が沖縄県の約2倍ですから如何に格差が大きいかが分ります。
昨年、北京の超高級マンションと北京郊外の農家2軒を訪れる機会がありました。その上下の落差の大きさに、私は、これが能力に応じて働き欲求に応じて与えられることを理想とする社会主義の国かと目を疑いました。例えば居住環境について高級マンションと農家を比較すると、前者は30畳のリビングルーム付き5LDK、シャンデリアと間接照明、特製シャワー付きジャグジー風呂という豪華さでした。
これに対して、後者ではバラック小屋風の狭い部屋に紐吊り裸蛍光灯、屋根に設置した黒塗りドラム缶からの温水で体を拭くという生活が窺えました。これが機会均等実力主義の結果ならまだしものこと、実態はそうではないから、当然、不公正、不平等に対する人々の不満が相当高まっていると推測されます。しかも農村人口は全人口の6割を超えるのですから、国として大問題です。
―農民・貧困層の不満の鬱憤
農村の不満は土地収用トラブルにも顕われています。中国の農地は私有ではなく、
農地を工場や宅地に転用するときには、国・地方政府が僅少の保証金を農民に支払って強制収用し、その借地使用権を内外のディベロッパーに払い下げます。追い出される農民は、生活の資である土地と住居を突如失うことになります。ここでもそのプロセスが一方的かつ不透明なこともあって、被害を受けた農民の不満は大きい。その上後述するように、工場立地に伴う環境破壊に関するトラブルも多発しています。中国全土で農村を中心に起きた暴動などの集団行動は、‘04年に74,000件、’05年には実に87,000件に及んだと言います。毎日230件以上の騒動が起きたことになります。昨年5月に出された中国扶貧開発協会の報告書によると、食べるものに事欠く農民が23百万人、不十分な農民が50百万人いるそうです。
このような事態に対応して、全国人民代表大会常務委員会は、昨年1月末、遂に農業税条例の廃止を決定しました。歴代王朝時代から続けられてきた農民への課税が遂に撤廃されるのです。(すでに直轄市・自治区では徴収中止) 農民の不満を緩和するための負担軽減策であります。
昨年3月に開かれた全人代で採択された「新農村建設計画」では、農村の義務教育化、医療保険制度化などが盛り込まれました。これらも農村を懐柔するための農村振興策でもありましょう。去年10月に開催された党の第6回全体会議(六中全会)でも「調和社会の建設」を採択しています。経済政策で地域間格差の是正と合理的所得配分を目指すとうたっています。 最近、政府は貴州省の絶対貧困難民の救済に、日本からの借款を含め、5年間に9億元を投入するといいますがこの程度では焼石に水でしょう。
また、中国の戸籍登記条例等による「戸籍制度」では、農民は2年の期限付きで出稼ぎはできても都市に定住できない。農村と都市を分断するかたちの二本建、いわば身分制による二元管理であります。「選挙法」でも、農民の一票は都市住民の四分の一に制限されているといいます。これらが社会的差別として問題にされ、陝西・山東・遼寧・福建・広東の各省から次々と差別撤廃の要求が出されてきました。中央政府も遂に前回の全人代で、農村戸籍と都市戸籍の区別を徐々に解消し戸籍制度を一本化する方針を明らかにしました。農村活性化のために大卒10万人を農村に下放することも検討しています。このような一連の改革により、農村問題が解決の方向に向かうのかどうか、未だ予断はできません。加えて、都市部でも失業者や劣悪な就業条件で働く人々が増えています。地方から臨海部の都市へ流入する民工(農民工)の数も、中央政府の発表によると118百万人になっており、大量の貧しい人々の怨嗟が都市社会に鬱積しつつあります。
―不透明な政治・ビジネスの慣行
次に、高級官僚や太子党を中心とする、エリート人脈ネットワークによる不透明な政治・ビジネスの慣行であります。今の中国では、市場原理が最も優先されるといいながら、一部階層の利益集団だけが恩恵を受ける仕組みになっているようにみられます。しかも政府がこれを容認している。法治より一部の人間による人治の世界であります。
私共はベンチャーのマーケティング情報入手のために、国や自治体を訪れましたが、計画や許認可に関する情報は、一部のエリート人脈層の中に入れなければ前広には得られないことが分かりました。逆にこうした人脈ネットワークに喰い込めなければ、必要な情報がない不利な状況で商談に取組まざるを得ないことになります。
こうしたビジネス環境は、コラプション(贈収賄)の温床にもなり得るので細心の注意が必要です。事実、全人代報告によると、‘05年一年間に汚職等で立件された国家公務員は41,447人に及んだとしています。 ’07年も若干減ったものの、40041人に上りました。 政府は、腐敗が蔓延しているのを踏まえて対策を強化するため、委員会トップの人事につき、中央から高官を派遣したり、地元外からの登用により体制固めを狙っていますが、摘発の徹底は難しいようです。しかしながら、贈賄に手を染める訳にはいかない。 そうかといって、有用な情報を得るためには拱手傍観していても駄目でありましょう。不正なカネをつかわずエリートネットワークに入り込むにはどうすればよいのか。
まずこちらの会社がどういう思想の、どういう人物によって運営されているかが問題にされるらしい。つまり信頼できる会社として認められなければならないということだと思います。そうすれば正攻法が認められると思いたいのであります。 しかしながら、国際入札といっても、極端に言うとそれは「貨比三家」の原則(モノを購入するとき三社を比較) により購入先決定を正当化する手続きであり、既に意中の相手は入札の段階では決まっていることが多いというから問題です。意中の相手が良い条件を出してくれることを期待しヒントを与えるともいいます。又、意中の相手に製品の品質・性能と競争力ある価格を出すことは当然求めます。しかし相手企業の責任者の人物こそがもっとも重要としてチェックされるといいます。依然として人治社会なのであります。
中国政府も法治強化の必要は十分認識しているから、第11次5ヵ年計画では司法改革や腐敗防止の目標を掲げています。モノや土地の所有権の明確化を図る物権法が3月の全人代で採択されました。私有財産が国有財産と対等に保護されると報じられています。しかし、具体的にどこまでどういう形で保護されるのか運用での裏打ちが鍵になりそうです。腐敗防止も、汚職撲滅の専門組織の新設がこれから検討される模様です。 開放政策導入以来30年経っても法治への道は大変険しいと思わざるを得ません。
―少数民族問題の燻り
中国には漢民族による統治体制と少数民族の問題があります。最近「中国民族幹部学院」を訪問する機会があり、改めて少数民族問題が未だに燻っていることを再認識させられました。
中国ではチワン族1,555万人、満州族984万人、回族816万人を初め、漢民族以外は全て少数民族であります。少数民族は‘53年〜’86年の間、3回に亘って認定作業が行われ、600近い名乗り出の中から55が認められました。漢民族と55の少数民族(9,120万人、全人口の約8%、居住面積は国土の約60%) により「中国」という国が形成されるというかたちであります。「民族区域自治」と称され、23の省、5特別市の他、5つの自治区があり、その下に30の自治州、124の自治県が認められ、言語・文学・風俗習慣が尊重されています。しかしながら中央政府の方針と異なる独自の政策は一切認められないから、少数民族の中には独立志向が強いところがあります。チベットのほか、新疆ウィグル・内モンゴルなどには国境にまたがるエスノナショナリズムの高まりもあります。
例えばチベット、ダライラマのインド亡命から40年以上も経過すれば、亡命政府の動きには限界があると思われますが、未だに中央政府の警戒心は強く、特にチベットの人々の生活水準に注力します。ポタラ宮殿(観光資源)の修復やラサへの青藏天空鉄道路線(標高4〜5,000m)の敷設に総計約1兆3,000億円が投入されています。西寧−ゴルムト間は‘84年に開通しましたが、ゴルムト−ラサ間は難工事で現場工事だけで5年を要し、昨年7月ようやく完工しました。中央政府は少数民族問題については同化政策と称して、漢民族の他民族地域への移住を推進してきましたが、満州族等では成功したものの、却って紛争を招く結果になったところもあります。例えば新疆ウィグルでは、この地域をトルキスタンと呼び、独立を目指す勢力の活動が、最近積極化していると言われます。モンゴル族は3分されているから一緒になりたいという力が働きます。
「中央民族幹部学院」は中央政府が北京市の郊外、国防大学の隣に広大な敷地を確保して大理石を敷き詰めた超高級施設を建て、少数民族の中堅および上級指導者に対する民族同化の研修を行っています。また、全国人民代表大会に少数民族の特別枠を設ける、少数民族に対して一人っ子政策の適用を除外する等、特別な配慮を払います。「西部大開発」構想も少数民族対策の一環といわれます。開発投資の重点は、ケ小平氏の深?、江沢民氏の上海に次いで、今後は温家宝氏の天津に移るといわれていますが、西部への投資は引続き進めなければならないとみます。国の成長路線継続のためには資源開発が求められるから、その意味でも西部は重要です。
最近では漢民族と少数民族を合わせて「中華民族」と呼称すべしという議論があると聞きます。しかし1984年にそれまでの経緯を踏まえて「少数民族区域自治法」が制定されており、各民族対等の立場で国に貢献するべしとするかたちは今更崩せないと思われます。去る5日、政府は東トルキスタン、イスラム運動(ETIM)の訓練基地を襲撃し18人を射殺17人を逮捕したとの報道がありました。懐柔策と併せて強硬策も発動しています。少数民族問題が今後どのように変容していくのか、注意して見守る必要があります。
―環境問題の深刻化と自然災害
中国にとって極めて深刻な問題に環境汚染があります。
最近見聞きしたところによると、中国の二酸化炭素等温暖化ガスの排出量は米国に次いで世界第二位、酸性雨の原因となるNOx排出量は2549万トンと世界一であります。各地の工場周辺などで、農作物被害のみならず頭痛や鼻炎に苦しむ農民が急増しています。しかし地方では党委員会が管轄下の組織・人民を指導する権限を持つから、そこで環境保全より経済発展が優先されれば、陳情や抗議運動は儘ならない。ましてや訴訟に持ち込むなどはまず考えられない。それでも国家環境保護総局の集計では、環境問題に起因する集団事件がここ数年は年30%近い勢いで増え続けているといいます。
水質汚染も目に余るものがあります。当局は‘96年以来、50以上の法規を制定し昨年は大気汚染だけでなく河川や湖沼に有害物質を流す企業2,682社に閉鎖勧告を出し、1,750社の生産活動を停止させました。国家発展計画委員会は2010年までに環境対策に約70兆円を投資する計画を提案しています。しかし環境破壊は対策を超えるペースで進んでいます。数年前、国有企業民営化ミッションの団長として鞍山製鋼所を訪れたとき、転炉だけでなく平炉が未だ使われているのを見ましたが、今でもそのまま操業中と聴きます。鉄鋼を4億トン作っても足りない。高成長中国では、今後もエネルギー消費は膨らみます。工場排気のみならず自動車人口もどんどん増える。国内の公害にとどまらず有害物質が黄砂に乗って韓国や日本に飛来するから、国際問題になること必至です。中国政府はようやく’06年からの5ヵ年計画で、省エネ・省資源の循環型社会の実現を目標に掲げ、大量排出の根源に目を向けました。排出権取引対応の法制化にも踏み込みました。しかし未だ端緒に付いたばかりで先行きに対する苦悩は大きいと見られます。
中国では、炭鉱などの人身事故が絶えません。又、自然災害や砂漠化による水不足、感染症・疫病等に関する対策にも追われることになると見られます。
わが国政府は対中円借款を中止する方針ですが、優れた技術力を持つわが国の、国際環境衛生保全への協力は惜しまない姿勢が求められます。
―鉱物エネルギー資源と食料の不足
五つ目は資源不足問題です。13億(16億)の人口を抱える中国にとって、将来のリソース不足問題は深刻です。
中国政府は世界で鉱物エネルギー資源と食料を確保するための戦略を強力に進めつつあります。例えば昨年8月チリを訪問した時に聴いた話ですが、チリ産出の銅を55億ドルのデポジットをしておき出荷ごとに引き落とす仕組みにより確保しようとしています。天然ガスの輸入政策にも踏み切り豪州との長期契約を結んだと報じられたばかりでありますが、ロシアに対しても60億ドル先払いによる取引を申し出ております。豪州、ブラジルの鉄鉱石、豪州のウラン鉱山の開発にも着手、ヴェトナムのボーキサイト、サウジアラビアやアフリカ諸国やミャンマーの原油天然ガス確保にも乗り出しています。(原油1.2億トンの輸入必要) 勿論、前に述べたように、中国は外からのエネルギー資源獲得戦略に加え、国内の省エネ促進も重要課題であることは認識しています。しかし現実は、中国の工業生産に対するエネルギー消費量が世界平均の2.4倍といわれます。又、中国の資源利用効率は主要59ヶ国中54位といわれます。新5ヵ年計画でGDP当たりのエネルギー消費を2割減らすといいますが、5年間でGDPは44%の伸びを想定しており、結局消費は減らない。節約社会への転換を宣言してみてもその実現は難しいと思われます。中国の資源権益獲得に奔走する動きが止まる気配はありません。
食糧確保では、豪州の農産品の開発輸入促進やアセアンとの農作物対象のFTA先行実施等もあります。アンデスのトンネル掘削によるアルゼンチンから太平洋岸への食糧搬出の提案や、鉄道敷設によるアマゾンから大西洋への大豆等穀物輸送の申し出も報じられています。各国とも、当然こうした中国の動きに対して大いに懸念を示していますから、全ての事例が中国の思惑どおりに進展するかどうか甚だ疑問ではありますが、わが国としても中国の積極攻勢に対して、戦略的にどう対応するのか早急に研究する必要があろうかと思われます。
―外資依存経済と国内産業
中国の輸出入規模は1兆4,000億ドルで世界3位になりました。世界貿易の6.5%を占めるに至っております。外資系企業中心の貿易依存経済(外資系企業が中国の貿易取扱高の55%,ハイテク製品では80%) になっていますが、前述のように外貨準備高がついに1兆ドルを超え、元の為替相場に対する外圧とドルの下落に対するリスクを招いております。政府は、先般最高幹部会で協議し、輸出の重点を国内で付加価値の取れる項目に移していくこと、輸入を必要物資中心に積極的に促進すること、対外投資を戦略的に進めること、の3点を申し合わせました。そして外資系企業に対する特権を見直し、国産化奨励・国内産業重視の方向に舵を切りました。3月の全人代本会議で外資優遇制度の廃止が決定されたのです
‘08年から5年かけて法人税は内外の別なく25%にすることが決められたのです。「二免三減」の制度(黒転2年間免税、その後3年半分に減税)も廃止される予定です。又、加工貿易のかたちより国産の材料・部品の使用を奨励することになるでしょう。これからどのように具体策を打ち出してくるのか注目したいところです。
―国有企業の不振と四大商銀の苦境
中国の国有企業は、再編と民営化により改革が進められその生産額は鉱工業総生産の4割にまで縮減されましたが、依然として「親方赤旗」の非効率な経営を継承してきており、又既得権益を捨てられないから経営はよくなりません。 こうした国有企業に対して、党の政府の圧力もあって面倒を見ているのが四大国有銀行
(中国銀行・中国建設銀行・中国工商銀行と中国農業銀行―四行で全中国金融資産の約8割を占める)であります。 中国の金融システムは未だ脆弱であり、過熱業種にも積極的融資を行っているので、それに国有企業の経営不振・倒産が加わると、不良債権が顕在化するリスクをはらんでいます。 状況如何では大きな問題になる心配があります。
党・政府と国有企業と四大商銀の不透明なリンケージをこわすことが安定化への課題かも知れません。
―評判リスクへの対応
中国には急成長の歪みとして、上述の他にもインフレ懸念や経営管理者・高級労働者の不足など、いろいろな問題が生起しておりますが、これら国内問題に加え、知的財産権・コピー問題、労働者酷使・人権問題、契約軽視・法令変更などの外国に影響を及ぼしている問題があります。ところがこれらの問題の処理はなかなか進まず、諸外国からは改善要求が次々と出されております。政府はその対応にも追われています。中国では「上に政策あれば下に対策あり」という言葉があるように、簡単には問題が解決に至らないのです。前途多難であります。
4. 今後の展望とわが国の立場
いずれにしても、今の中国は体制国家であります。また、胡錦涛政権(西北派) が江沢民一派との抗争を収め、一応政治的には安定状態にあります。親民路線・調和社会・構造調整の政策が一応奏功しています。政府はあらゆる手段を講じて問題の顕在化を抑え込むことになるでありましょう。その面子にかけて、2008年北京オリンピック、2010年の上海万博までは抑圧するものとみられます。
‘06年からの5ヵ年計画では、政府は経済過熱とI−Sバランスの崩れ等問題噴出を警戒してか、例えば年の平均実質成長率を7.5―8%に抑えると言明しています。唯、この政策遂行は相当の難作業でありましょう。抑制策は経済成長を失速させないよう配慮した調整になるからです。又、旗は共産主義、政策は社会主義、現場は資本主義ともいえる思想混交のなか、政府の舵取りの難しさは測り知れないものがあります。中期的に極めてリスキーな局面を迎えるかもしれません。
長期的にみれば、中国がアジア否世界の経済・社会に今以上に大きな影響力を誇示する大国になることは間違いないが、中期的には十分慎重な対応を考えていく必要がありましょう。最近米国のシンクタンクの所長と面談しましたが、その際彼は「今や米国企業は回収に5年以上かかる事業には投資しない。」と断言していました。
ところでわが国の立場は難しい。中国に進出する日系企業数は30,000社、駐在員は60,000人に及んでいます。アジア安定のために中国の安定は重要ですが、日本にとっても、中国は巨大市場として、生産工場として魅力があります。日中関係の改善が必要であること言を俟ちません。しかし中国の「一人勝ち」の状況になってもアジアの安定には繋がらない。ASEAN諸国とのリスクの分散、インド・ロシアとの関係強化等による中国牽制の戦略も求められるところであります。そうかといって、わが国として中国を敬遠するならばその逸失コストは余りにも大きい。リスクを取らないリスクは大変大きい。当面、日本企業は、中国リスクから逃げるのではなく、リスクを十分に調査分析して見極め、リスク軽減の戦略を構築して積極的に対応することでありましょう。
以 上
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