第3回「 中国経済の光と陰」─垣間見た中国の実情と安定成長の課題-
                         2007年3月例会 大利 貴彦プロフィール

                       團野 廣一氏 

 
        だんの こういち
1933年9月大連市生まれ。 1956年神戸大学経営学部卒後、
三菱重工業株式会社(旧三菱造船)本社入社
1973年三菱重工業株式会社・原動機輸出部企画課長
1993年株式会社三菱総合研究所 代表取締役専務
1996年同・代表取締役副社長
2000年 同・同退任、常勤顧問(上席研究理事)
2002年1財団法人 政策科学研究所 特別顧問
2002年株式会社三菱総合研究所 顧問(研究顧問)
2004年同・同退任
2005年三菱商事株式会社業務部 顧問
社外活動、主著、論文はこちら
                           
 
<講演要旨>

 講演は、大きく二つに分けられる。一つは、日中国交回復を目指した当時の田中角栄首相訪中の露払いミッションとして、35年前の1972年8月に、三菱銀行、三菱重工、三菱商事の頭取・社長が中国に招聘され、團野氏も3人の随員の一人として参加し、周恩来総理から親しく直接話しを聞く機会を得たことの記録である。当時の関係者は殆ど故人になっている現在、直接話しを聞いた團野氏の記録による周総理の考え方についての話しは、極めて興味深く、貴重なものであった(詳細は、別掲「日中国交回復直前の訪中記録より」を参照のこと)。
 周恩来の話の要約は、

(1)ソ連は、スターリンの後継指導者達が修正資本主義に走り、欧米にすり寄っているが、このような無定見な修正主義は決して長続きはせず、ソ連はやがて自ら滅びるであろう。

(2)EU(当時)は、米ソ対立時代の後、70年代に入ると第三勢力として人口・生産力で米国を上回り、今後も着実に米国に対峙するバランス・パワーになるであろう。

(3)ニクソンは、第四の勢力として、工業力で急成長した日本、第五の国として、潜在力の国の中国があるとし、これからは、米国・EC・ソ連・日本・中国の5ヶ国の話し合いで世界が動くことになろうと分析したが、私(周恩来)もこの分析は正しいと思う。

(4)レアード氏による日本の演説に要約されている米国のニクソン・ドクトリンは、@軍備を日本他各国に肩代わりさせ、米国製武器を買わせる、A条約により各国との連携強化を図る、B米国の国益を優先する、それも平等互恵の利益ではなく、米国のみの収奪の利益である。米国は、云いたいことをはっきり云うが、云うことが身勝手で矛盾しており、話し合いに応ずるのは難しい。

(5)中国は、欧州諸国から植民地化を目指して攻め込まれたし、日本からも、日清・満州・日華・そして第二次大戦と一方的に侵攻され続けた。当時の中国政府が腐敗していたため容易に攻め込まれたが、中国にとっては正に多難の百年であった。

 日本の少数の軍指導者のために、多くの中国人民、アジアの人々が犠牲になったが、しかし、日本の多くの一般国民も同じく被害者であった(周恩来の所謂「二分論」)。中国の人民も戦争によって寝覚めたが、日本国民も敗戦によって目を覚ましたと思われる。この際、中日正常化を政治的に解決したい。


 團野氏は、当時の速記メモを読み返して、世界は、改めて当時の周恩来の先見の明の通りとなっていることを認識する。

 しかし、日本の現状は、経済的には安定しているものの、対米一辺倒で世界戦略を欠くやに見える。しかも昨今の日中関係のギクシャクした状況は、両国関係者の歴史に関する理解と認識にズレがあるところから生起している。特に、周恩来総理の二元論を理解せずに、いたずらに歴史の認識違いを展開していては、新しい日中関係が生まれることにはならないことを認識すべきである。

 講演の第二点(詳細は、別掲、「中国経済の光と影」─垣間見た中国の実情と安定成長の課題)としては、中国経済の光の面としては、中国は、一党独裁の現体制維持のためには、ケ小平の「先富論」以来の市場経済化を推し進めて高度成長を続けることが重要であり、現に10%を越える高度成長を続けている。

 しかし、その裏面では、格差拡大、農民・貧困層の不満の鬱積、不透明な政治・ビジネスの慣行、少数民族問題の燻り、環境問題の深刻化と自然災害、鉱物エネルギー資源と食料の不足、外資依存経済と国内産業の在り方、国有企業の不振と四大商銀の苦境、評判リスクへの対応、など色々な問題点が山積している。これに対しては、安定成長への軟着陸、農民に対する農業税の廃止など各種改善政策、外資優遇制度の廃止、物権法の制定などの対策が取られているが、山積する問題の解決は容易ではなく、日本としても中期的には、十分慎重な対応を考える必要がある。

 しかし既に、中国に進出している日系企業は、30,000社、駐在員は60,000人に及んでおり、リスクの分散が必要であるものの、リスクを取らないリスクも大変大きい。当面、日本企業は、中国リスクから逃げるのではなく、リスクを十分に調査分析して、リスク軽減の戦略を構築して積極的に対応する必要があろう。