第4回 モンゴルの食卓
                 酪農学園大学酪農学部食品科学科助教授 石井 智美 氏 

 

《プロフィール》
いしい さとみ
北海道在住。酪農学園大学大学院博士課程修了・農学博士。
北海道大学大学院文学研究科修了・文学修士。
現在、酪農学園大学酪農学部食品科学科助教授。専門は微生物学・栄養学・文化人類学。遊牧民宅で数回の住み込み調査を行うほか、民族飲料「馬乳酒」の持つ機能性について研究中。著作にアジア読本シリーズ「モンゴル」、「チーズの文化誌」(ともに河出書房新社)共著、「食と大地 」(ドメス出版)共著、「食文化入門」(弘文 堂)共著など

                           
 

 遊牧民の朝食メニューは自家製乳製品と乳茶で、365日変わりません。乾燥して硬くなった乳製品は栄養が詰まっています。すぐ食べることが出来て、変質しにくいため、移動生活において最適の食料だったのです。日本の朝食では、今日が目玉焼きならば、翌日はオムレツなどと変えていることが、実は凄いことに思えたのでした。昼食も朝食と同じで、乳製品は朝からずっと食卓に出ています。空腹を感じたときに適宜食べます。夕食は少量の干し肉を加えた自家製麺類など小麦粉を使った料理です。気温が下がる夜、温かい食事にホッとさせられます。


 隣国中国の食の影響をあまり受けていないと言われるモンゴル遊牧民ですが、中国の肉まんを小さくしたような「ボーズ」という名の、細かく切ったヒツジ肉を中に入れて練った小麦粉の生地で蒸した料理が大好きです。大人も子供もボーズと聞くと顔をほころばせます。社会主義体制下のモンゴルでは、小麦粉は自給率100%でした。しかし民主化以降、社会の混乱により生産が低下し、最近は中国産の小麦粉が輸入されています。特に1999年から2年連続した雪害により財産である家畜に被害を受けた後、消費が増えました。

 台所はゲルの入り口右側で、そこにある料理用の道具は、食器も含め驚くほどシンプルです。1つの道具が多目的に用いられているのです。 夏季は乳製品の消費が多く、冬季は越冬用の肉の消費が増えるのが伝統的な遊牧の食のスタイルでした。思えば近い過去まで、
日本でも、生活圏内にあるものを食べてきたのですよね。近年フードマイレージという概念が生まれ、日本では食糧の輸送距離がアメリカの8倍とも言われています。遠くから調達されているのですが、モンゴルの食材はすべて自前。質素ですが、添加物皆無の本物の食です。


 自分たちのためには決してしないのですが、遠来のお客には、財産であるヒツジを屠ってご馳走します。その解体は見事で、生き物が食べ物になる過程が目の前で進行します。食べるという行為が、別の生命をいただく、受け継ぐことであるのを痛感させられます。子供も見ています。日本の私たちはそうした過程が見えなったことで、無意識のうちに食べものに対する感謝、敬虔さを忘れてしまったのかもしれません。そこから今日、私たちの食が抱える問題が生まれているのではないでしょうか。