第 6回  コショウ漬け


 
 初めて村に来て、お茶の時に出されたダイコンの漬物、きれいなピンク色に驚いた。口に入れるとピリッとした辛みと、若干の酸味があり、あっさりして歯ざわりがよい。何かしら独特の風味と野菜のうまみもある。

 「おいしい」と言うと、近所の典子さんがいった。「コショウ漬けだよ。よかったら付け汁を分けてあげるよ」と。そして早速白いポリバケツに入れたコショウ漬けを持ってきてくれた。ピンク色の液、大根、キャベツ、赤カブ、キュウリ、と大きなトウガラシが入っていた。村ではトウガラシのことを”コショウ“と言う。ピンク色のルーツは赤カブか、ビーツである。

  中身の液は、塩水の中に大きなトウガラシを入れ、ミョウガやシソの茎などを風味にいれる。新しく入れる時には塩をたすことは、糠みそ漬けと同じ要領だ。液の中には、さまざまな野菜のエキスが混ざり発酵しているので、手を入れてかきまわす。コショウ漬けは村独特の漬物でよそにはない。古くなると、酸っぱくなるが、それなりにおいしくて、“山”にきたリロシヤ人が「ピクルスと同じ」と言った。

  隣の隆代さんに教わったコショウ漬けの佃煮風もまたおいいしい。つかり過ぎたものでもよく、キュウリ、ミョウガを刻んで絞り、青ジソの身をたくさんと、刻んだ青トウガラシを軽く塩をして熱湯であく抜きをする。全部を、味噌、砂糖、みりんで味つけするというものである。お酒のおつまみに合う。

  村の女衆は、よく漬物を食べてお茶を飲む。皆、小気味よい音をさせて食べるのは、歯が良いせいであろう。隣の神主さんのおばちゃんは今年百歳になるが、90歳過ぎまで
虫歯は2,3本だったとは言うのには驚き恐れ入り、我が歯の貧しさが恥ずかしくなったのである。

 
  山岸 昭枝 (著 JA『たべもの日誌』刊行会 より)

《プロフィール》
やまぎし あきえ
1928年福岡県生まれ。北京日本第一高等女学校卒業後、帰国。1985年より長野県北安曇郡小谷村に移住。夫とともに100羽の鶏を飼い、有機肥料・無農薬農業で自給自足の生活を始める。
1992年より兄の中薗英助(作家、1993年読売文学賞、1995年大佛次郎賞を受賞)が主宰する同人「記録者の会」に入会。1992年『ちゃんめろの山里で』で第13回読売女性ヒューマンドキュメンタリー大賞カネボウスペシャル入賞、TVドラマ化。1998年3月『遥かなる山里の小さな話』(青春出版社)を出版。