第13回 会社公開の日

赤 単 
 
 
 

 私が勤務している会社は、ライン川の側に広大な敷地(キャンパス)を有しており、研究、開発、生産、営業、そして管理部門のといった企業としての全ての機能が集結しています。あまりに広いので、同僚たちも敷地内の位置関係が把握できていないほどです。

 先日、所属部門の秘書さんから、「週末はオープンキャンパスだって、町じゅうにポスター貼ってあるでしょ。今度の土日は家族を会社に連れてきなさいよ。」といわれました。さらに「飲み放題、食べ放題だし、来るべきよ。」と、彼女も自分の家族とともに、キャンパスを探検するつもりであることを教えてくれました。

 なるほど、会社のキャンパスに家族を招き入れようなんて、なかなか洒落てるじゃんということで、「お父さんの会社見てみたい?」と家内と息子を誘ってみると、二人とも目を輝かせて「行く」とのこと。食べ放題とはいっていないにもかかわらず、意外に好評なので驚きつつも、自分のオフィスのあるビルに連れて行くことにしました。



 当日は、社員の家族のみならず、全く無関係の人もキャンパスに入ることが可能です。順路を示すための青色のテープが地面に貼られ、それに従っていくと、会社の歴史資料館、最新鋭の工場、研究施設、社員食堂など、ありとあらゆるところにたどり着けます。お見せできるものは全て見せてしまおうというポリシーですね。どんな製品を作っているのか、どんな研究をしているのかなどを社員たちがわかりやすく説明するブースもあり、ほとんど学園祭のノリです。さらに、飲み物、食べ物、ジャズバンドによる生演奏、さらにチャーターされた船によるライン川クルーズも、全て無料で楽しめるという、大盤振る舞いまでしています(そのコストは日本円で、億単位!)。


 キャンパスをバーゼル市民や地元マスコミに公開することによって、実際には、会社のイメージを上げるという狙いもあるでしょう。しかし、私が最も印象に残ったのは、若い男性の同僚が連れてきた、年老いた母親の誇らしげな表情でした。難しい科学技術の話はわからないでしょうが、自分の息子が、真っ当な会社で、まじめに働いて、まともな同僚(僭越ですが私のことです)とつきあっていることは充分にわかるはずです。その時の、母親の晴れがましい気持ちを思うと、広告効果よりももっと大事なことのために、このお祭りをしているんだなと感じたのでした。

 

(次回をお楽しみに ・・・)
 
マスコット骨犬君