第4回 マロニエご飯

赤 単 
 
 

 
  私の知る限りバーゼルの人たちはかなり几帳面です。鉄道、市電のダイヤ然り、ビールも、大ジョッキ、小ジョッキではなく、500cc、300ccと注文します。殆どのドライバーは制限速度を守りますし、ハリネズミが道を横断しているときは、「スイス人ドライバーは止まったり、避けて通ったりするのに、フランス人ドライバーはそのまま轢いてしまうのよ。」とフランス人の奥様がおっしゃるほどです。

 会社でも5時を過ぎるとみんな家に帰ってしまうので、とぼとぼと帰宅する途中、たくさんの木の実が落ちているのに気がつきました。大変な数でして、バリバリ踏んで歩かなくてはならないほどです。9月中旬から下旬にかけて、少し寒くなった途端に、ありとあらゆる実を落とすなんて、バーゼルの木々もまた実に几帳面です。市内の小さな動物園には、木の実を保管する箱が置かれていましたから、冬場の動物のえさになるのかもしれません。

 さて、昨年秋の話ですが、息子が近所の原っぱに生えている木に、栗の実のようなものがなっているのを見つけ、ユサユサと揺らして、両手一杯分拾ってきたことがあります。これを見た家内は「栗ご飯」を作るべく、念入りに茹で、丁寧に渋皮を剥いた後、試しにちょっとかじってみたのですが、それは通常の味覚を超越しており、その場で身悶えながら吐き出すほどの苦さだったそうです。隣家の物知りおばさんによると、その正体はマロニエの実だそうで、「虫も食わないほどまずい」のですが、妙な病気になるようなものではないそうです。

 とはいえ、異国に来て、えたいの知れない木の実を栗の実と早合点して、さらに食べようとする我が家族の度胸には敬服するものの、正直いって無謀です。海外駐在員は仕事のみならず、家族のちょっとした、しかし、実はとても危険な行動にも気を使わなくてはならず、苦労が絶えません。

                  赤単

                   (次回をお楽しみに ・・・)

 

 
マスコット骨犬君